企業ホームページ運営の心得

チラシとは違うのだよ、チラシとは

チラシそのままにWebのコンテンツを作ろうとすると失敗します。それはWeb屋が犯しやすいミスです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百弐十六

チラシ一筋30年

わたしが最後の勤務先を辞めなければならなくなった理由の1つは「チラシ」です。20世紀の終わり頃、少部数のチラシはPCが普及したことによって、ワープロソフトと家庭用プリンターで印刷されるようになりました。また大きな印刷会社が、数十万部単位のチラシ印刷を手がけはじめたことで、街角の広告代理店の稼ぎ頭だったチラシ制作は過当競争に突入しました。そこで、比較的同業者の少なかった「ホームページ制作」への進出を主張したところ、「チラシ一筋30年」の社長の反感を買い、社内に居場所がなくなったのです。

チラシをもとに制作を相談されるケースはよくあります。しかし、チラシそのままにコンテンツを作ろうとすると失敗します前回紹介した「呉服屋」の失敗理由の1つも「チラシ」。それはWeb屋が犯しやすいミスです。

紙面の限界

Web屋が犯しやすいミスとは、渡されたチラシに従ってコンテンツを「まとめて掲載」してしまうことです。

チラシをはじめとする「紙」の媒体は印刷面積という物理的制約を受けます。特にチラシは、紙の大きさが印刷代金と折込料金(新聞に折り込むために各新聞販売店に支払う料金)に比例することから、多くの情報を詰め込んで掲載することでコストパフォーマンスの最大化を目指します。

一方、乱暴な結論を述べれば、ホームページとは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」です。情報を詰め込んだ全10ページのサイトより、豆知識だけを1,000ページ集めたサイトの方が100倍のPV数を期待できます。PVが成果につながるかは別問題ですが、これは「ロングテール理論」と同じです。

チラシとWebでは正反対のアプローチが求められます。

折込チラシ、かってに解析!

分割してページ数を増やすことによってSEO効果も期待できます。ページを1つの情報だけで埋め尽くすことで、コンテンツの「情報純度」が高まるからです。反対に複数の情報を盛り込んでしまうと、互いが「ノイズ」となることがあります。

たとえば「AKB48」のページの中で「ももいろクローバー」について紙幅を割けば、検索エンジンがどちらについて語るコンテンツか迷ってしまう可能性が生まれるということです。そこで、それぞれを分割させ「情報純度」を高め、検索エンジンが迷わせないようにするのです。

さて、ここからは衣袋宏美教授の人気連載「有名サイト、かってに解析!」をリスペクトしての企画です。題して、

もしも、葬儀社のチラシをコンテンツにするなら

どこまで分割できるか

弊社に織りこまれた葬儀社のチラシを「コンテンツ」に切り分けてみる試みです。先方に無許可のため、サービス名などには手を加えております。

B4判両面カラーのチラシは、訴求企画もあり、デザイン的な完成度も高いといってよいでしょう。それが故にそのままホームページにしたとするなら「盛り込みすぎ」となるのです。まず、チラシ表面の構成は次のようになります。

チラシ表面のコンテンツ
  • 社名
  • 地図
  • ミッションステートメント
  • 葬儀費用の内訳(円グラフ)
  • ●●テレビで紹介!

Webに置き換えるなら、「社名」「地図」「ミッションステートメント」はそれぞれ「会社概要」「交通のご案内」「我が社の使命」と3ページ分のコンテンツになります。次に円グラフを配置した訴求企画である「葬儀費用の内訳」は、1つのページとして独立させるか、「トップページ(ホームページ)」に配置するかは悩みどころではありますが、今回はプラス1ページとし、合計4ページ。ちなみに「訴求企画」とは私の造語で、商品やサービスの羅列とは違い、客にメッセージを訴えかける企画のことです。

まだまだ尽きないチラシ企画

さらに円グラフにある「葬儀費用」「料理」「返礼品」「飲食費」「追加費用」といった項目は、詳細とともにそれぞれ写真付きで表示されるので、ここも分割して5ページ追加。加えて「●●テレビで紹介」という記述はそのまま「PRページ」へ。すると表面だけで10ページのコンテンツができます。

続けてチラシの裏面です。裏面には葬儀プランが5パターンあり、生花の装飾や棺のグレードといったオプションが計4種。5つの葬儀プランと4つのオプションをリンクで結ぶとして9ページ、これに料金プランのインデックス(目次)を加えて10ページ。

さらに「事前相談会」、10箇条からなる「ポリシー」、定期開催している「ご葬儀説明会セミナー」に「葬儀Q&A」という小冊子プレゼント企画の4ページを加え、裏面は合計14ページです。

契約交渉も大切な仕事

たった一枚のチラシがWebにすると24ページ分ものコンテンツとなりました。さらにコンテンツを体系立てて分類し、それぞれにインデックスや目的ごとにまとめたガイドページをつけるなど「ユーザビリティ」を高めようとすればさらに増えます。そこで問題になるのが「費用」です。

自分で制作できるWeb担当者なら作業時間の確保だけですが、Web制作業者に発注しているなら費用がかさばります。いまでも「ページ単位」で見積もるWeb制作業者が少なくないからです。しかし、それを「プロジェクト単位」の契約に切り替えるよう交渉するのも「プロデューサー型Web担当者」の重要な仕事です。

そして、そもそも「ページ単位」という概念が、「チラシ型」という失敗を生むのです。件の「呉服屋」のサイトがうまくいかなかった理由の1つも「チラシ型」でした。

紙の限界とWebの失敗

「着物のよごれ診断」「染め直し例」「正しい手入れ」といった、目的の異なるコンテンツが「着物リフォーム」という1つのページに収められていたのです。これがSEOを弱めていました。

このサイトを手がけたWebデザイナーは、配置されたバナーデザインや、シンプルなソースのまとめ方を見る限り、「Webページ制作」においては確かな腕を持っていることでしょう。それがなぜ……という疑問の答えは、これらが1つにまとめられた「チラシ」を見たときにでました。Webデザイナーはチラシを渡され、その通りに作ったということです。ある程度情報をまとめた方がよい場合もありますが、指示を遵守するが故に生まれた「失敗」です。

世界に類を見ない地域広告「チラシ」はなくならないというのが最後の勤務先の社長の主張です。わたしは「なくなる」といったわけではなく「儲けにくくなる」とした上で、「チラシ」に付加価値をつけるために「ホームページ」との連動で活用しようと提案しただけなのですが。

そこで次回は「ホームページ」と「チラシ」との連動について掘り下げます。なお、チラシのノウハウが気になるという方は、「センスがなくてもチラシを組み立てられる電卓式レイアウト法」をご覧ください。

今回のポイント

紙面とWeb面の違い

分割することでSEO効果が表れる

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