ネットマーケティング業界の闇

100人の金正日――悪玉アフィリエイターが使う“裏”の手口

ネットマーケティング業界の“闇”

この記事では、業界関係者への取材で明らかになったネットマーケティング業界の「闇」をレポートし、対策方法を解説する。第2回は「アフィリエイト業界の闇」だ。

販促のための登録制会員サイトをオープンした企業のWeb担当者。発表時のプレスリリースには「1年で1万人の登録を目指す」と宣言されており、見込み顧客リスト獲得に対する営業部からの期待も大きい。

サイトオープン時はそれなりの会員数を集めたものの、しだいに獲得会員数は伸び悩み、担当者氏は針のムシロ。困窮して広告代理店の営業に相談したところ、こんなアドバイスを受けた。

会員登録数を増やすならアフィリエイトが効きますよ。アフィリエイターからの提携申請の全承認を謳えば注目が集まって提携サイト数を多く確保できるので、成果はかなり上がりますよ。

アフィリエイト報酬はそんなに高くなくても大丈夫です。高額なサービスの資料請求では1件あたり数千円の報酬を出すところもありますが、会員登録ですから、1登録あたり150円とか200円で大丈夫ですよ

予算にも合うので早速アフィリエイトを開始した担当者。1か月後、会員数は目に見えて増加したのだが……登録者リストを見てみると、名前が「金正日」の会員が100人もいるのだ。

「やられた」と思ったときにはもう遅い。その後も「石川五右衛門」「小泉純一郎」など明らかな偽名での会員登録が相次いだ。アフィリエイトサービス事業者にクレームを入れて金銭的な被害は免れたが、手間がかかった割には実質的な会員数はさほど伸ばせず、時間を浪費してしまった。

悪質なアフィリエイターの手口

上記の事例は言うまでもなく、悪質なアフィリエイターがコミッション(成果報酬)を稼ぐためにデタラメな会員登録を繰り返したものだ。

アフィリエイトは確かに有効なマーケティング手段として確立されている。しかし、自分がコミッションを得られればいいという悪玉アフィリエイターがいるのも事実だ。会員登録系に限らず、悪質なアフィリエイターが使うコミッション獲得のためのなりふり構わぬ手口にはさまざまなものがある。いくつか例を示そう。

  • 電話帳や名簿の情報を使った他人の名前や住所での資料請求
  • 薬事法に違反する広告表現での誘導
  • ブランド名やメーカー名でのキーワード広告出稿
  • アダルトコンテンツや著作権を無視した画像を使った集客
  • 他サイトからコピー&ペーストしたコンテンツ盗用サイト
  • コンテンツ盗用を自動化したスプログ(スパムブログ)
  • 掲示板やブログコメントを使ったスパム的な宣伝
  • mixiの足あと機能を使って見ず知らずの人に足あとを付けてまわって自分のプロフィールに誘導する足あとスパム
図1
図1 通常はリンクをクリックしてもらわないとアフィリエイトの成果とはならないが、リンク先のURLを指定したiframeをページに埋め込んでおけば、スタイルシートでiframeを非表示にしてあってもそのページが読み込まれ、クリックされたのと同じ状態になる。もちろんこういった行為はASP(アフィリエイトサービス業者)の規約で禁止されているのだが、アクセス元がASPやマーチャント関連のIPアドレスの場合はiframeを出さないようにして、目視チェックでばれないようにしている悪質なケースもある。

提携申請許可の重要性

このように悪質なアフィリエイターの餌食となってしまったら、「アフィリエイトなんて不正ばかりでダメだ」ととらえてしまうかもしれない。しかし、断じてそんなことはない。日々まっとうな努力を行い、マーチャント(広告主)の売り上げに多大な貢献をしているアフィリエイトサイトは多数存在する。大切なのは、世の中には悪質なユーザーがいることを理解したうえで、悪玉アフィリエイターの被害に遭わないように対策しておくことだ。

では、不正を排除し、アフィリエイトで成果をあげるにはどうすればいいのだろうか。クロスワーク株式会社の代表取締役社長として、これまで数多くのマーチャントに対してアフィリエイトに関する総合的なコンサルティングを行ってきた笠井 北斗氏は、こう語る。

重要なポイントの1つは、アフィリエイターからの提携申請時にちゃんとチェックすることです。きちんと審査すれば悪玉アフィリエイターの多くは排除できます。

門戸を広く構えようと“提携承認率95%”のようなアピールをしても、実際には悪玉アフィリエイターを引き寄せるだけなんです。逆に、提携承認時にちゃんとチェックしていることをアピールするほうが、結果的には成功するんですよ

提携申請を全承認にすれば、より多くのアフィリエイターが集まって広告の露出が増えると思ってしまうかもしれないが、実際には「このマーチャントはチェックが甘い」と、悪玉アフィリエイターを引き寄せる蜜になってしまうのだ。

膨大な提携希望サイトを1つひとつチェックするのはとても手間がかかるが、アフィリエイトで成功するためには欠かせない作業だ。どうしてもリソースが割けない場合は、クロスワークのようなコンサルティング企業に提携申請のチェックと承認の作業を依頼することも考えるべきだろう。

優良アフィリエイターの囲い込みが重要

アフィリエイト業界には、有名なパレートの法則によく似た「2:8(ニッパチ)の5乗の法則」と呼ばれるものがあるのだと笠井氏はいう。

  1. 10000サイトの提携申し込みがあったとして、実際に広告をサイトに掲載してくれるのはそのうちの2割(2000サイト)。

  2. 掲載された広告からクリックが発生するのがそのうちの2割(400サイト)。

  3. 月に1回以上成果が上がるのがそのうちの2割(80サイト)。

  4. 自己購入や不正ではないのがそのうちの2割(16サイト)。

  5. 残った16サイトが、全体のアフィリエイト売り上げの8割をあげている。

図2 クロスワークの笠井氏による「ニッパチ5乗の法則」
図2 クロスワークの笠井氏による「ニッパチ5乗の法則」
クロスワーク:http://www.crosswork.jp/

つまり、たくさんのアフィリエイターを集めるよりも、優良なアフィリエイターとしっかりとした関係を作るほうが重要なのだということだ。

優良アフィリエイターに対しては、直接コンタクトをとって、特別にコミッションの料率を上げるなどして積極的に協力してもらえるようにするんです。日本ではまだ一般的なやり方ではありませんが、アフィリエイトサイトを細かくランク付けして、ランクに応じて料率を大胆に変える手法は米国では主流になってきています

やみくもにアフィリエイトサイトを増やすのではなく、提携申請の際に不良アフィリエイターを可能な限り排除し、数少ない優良サイトに対してコミッションの料率をアップするなどのリソースを投下するのが、アフィリエイトにおける最適戦略の1つのようだ。

メールアドレスはいくつでも作れる

会員登録では、システムでメールアドレスの重複をチェックしていることだろう。しかし、独自ドメイン名をもっているアフィリエイターならば、いくつでも自由にユーザーやメールボックスを作れる。また、メールサーバー側で「キャッチオール」という仕組みを使えば、そのドメイン名に対するメールならばどんなアドレスでも受け取れるので、メールアドレスを作る作業すら必要ない。

独自ドメイン名をもっていないユーザーでも、Gmailを使えば何の手間もなくメールアドレスを大量生成できる。Gmailでは、「○○○@gmail.com」というメールアドレスがあるならば、「○○○+A001@gmail.com」「○○○+B004@gmail.com」のように、名前のあとに「+」に続けて適当な文字列を付けたアドレス宛てのメールがすべて、自動的に「○○○@gmail.com」に届くのだ。さらに、「Google Apps」というサービスを使えば、好きなドメイン名でGmailの機能を利用できるため、「@gmail.com」以外のメールアドレスでも「+」を使ったメールアドレスの大量生成は可能なのだ。

アフィリエイトを利用して会員登録や資料請求の件数を伸ばそうという場合、重複や不正のチェックは、メールアドレスだけでなく他の要素でも行い、成果承認をしっかりするべきだろう。

用語集
ASP / mixi / アフィリエイト / キーワード広告 / コミッション / ドメイン名 / リンク / 不正 / 広告代理店 / 業界裏話
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